時は享永1485年、征夷大将軍・勘六丞忠長（かんろくすけただなが）が、京都に赴いたときのことである。
この時分の京都と云えば、ゴキブリを掴まえて競い合わす『若百足虫（わかむかでむし）舞』が、大流行りであった。また一方で、うなぎを泳がして、ナマズと戦わせる鯰鰻競走（ねんまんきょうそう）も、大人気であった。
勘六丞忠長は、それらの行事に趣向を凝らしておったが、京都に足を運んだのはもう一つの事由があった。

勘六丞忠長「ほれそこの旅人よ。最近、京都に化け物が出るというのはまことか」

旅　人「はいはい、ちょいとおまちを。なんでも、貴殿様は、将軍様ですかい、天下の上様が、如何にしてこんなとこへおいでときやしたぜ。おい、虎蔵、このお方、将軍様ですってよ」

虎　蔵「なんでいなんでい、そんならそうとはやく云ってくれよ」
老　中「上様、こんなきゃつらに聞いても仕様ござりませぬ。ささ、かえりましょう。」
勘六丞忠長「何を申す、折角きたのじゃ、おい、旅人よ、一体全体いかなる妖怪がでたのぢゃ」